
「メトキシフェナミン」についての簡単な解説です。
メトキシフェナミンを含む市販薬の製品一覧
解説記事を書いたことのある製品を載せています。
鎮咳去痰薬
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製品名 | 1日あたりの成分量 |
---|---|
アスクロン | 150mg |
パブロンせき止め トリプル錠 | 150mg |
市販の鎮咳去痰薬に配合できる最大量は1日150mgになります。
(「鎮咳去痰薬の製造販売承認基準」より)
分類・作用機序
メトキシフェナミン塩酸塩の化学構造式

分類
交感神経刺激薬ですが、
その中でも「非選択的β(ベータ)刺激薬」となります。
自律神経には交感神経と副交感神経と2つあって、そのうちの交感神経に働くものですね。
交感神経には大きく分けて「α(アルファ)受容体」と「β受容体」という2種類の受容体があり、メトキシフェナミンはその両方に作用します。
さらに「β受容体」は「β₁」「β₂」などいくつかタイプがあります(今分かっているのは「β₃」まで)。
作用機序
メトキシフェナミンを薬として使う場合は、主に「β₂刺激薬」として使います。
気管支平滑筋にあるβ₂受容体を刺激することで平滑筋を弛緩させて気管支を拡張します。
気管支の収縮は、
- Ca²⁺が細胞内に流入
- ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を活性化
- ミオシン軽鎖がリン酸化
- 気管支の平滑筋が収縮
という流れになっています。

次にメトキシフェナミンの働きですが、
メトキシフェナミンはcAMPの合成を促進する作用があります。
- 気管支平滑筋のβ₂受容体にメトキシフェナミン(β₂刺激薬)が結合
- Gタンパク質(Gs)によりアデニル酸シクラーゼ(AC)が活性化
- ACによりATPからcAMPの合成が促進
- cAMPの増加
- プロテインキナーゼA(PKA)が活性化
- MLCKがリン酸化することでMLCKの働きが抑えられる
- Ca²⁺があってもミオシン軽鎖がリン酸化できない
- 気管支平滑筋が収縮できない
- 結果として弛緩する
こんな感じです。

cAMPはCa²⁺の流入を増やすのですが、それ以上に「Ca²⁺を使って収縮する仕組み」が止められるので、結果として気管支は弛緩し拡張するんですね。
ただ、メトキシフェナミンは「非選択的β刺激薬」ということで、β₂だけでなくβ₁受容体にも作用します。
β₁受容体は主に心臓にあり、これを刺激することで心拍数の増加、心拍出量の増加などが起こります。
β₂刺激作用により血管は拡張するのですが、β₁刺激作用の方が影響が大きく血圧は上昇します。
また、β刺激作用だけではなくα刺激作用もあります。
α刺激作用はプソイドエフェドリンの1/5~1/4程度の強さのようですね。
(「Methoxyphenamine inhibits basal and histamine-induced nasal congestion in anaesthetized rats」より)
この作用は、主に神経終末からのノルアドレナリン放出を介する間接的なものであると考えられています。
となると、メトキシフェナミンのα刺激作用はメチルエフェドリンと同様に主に間接的な作用であるため、頻回な使用により効果が減弱する(タキフィラキシー)可能性も考えられます。
※タキフィラキシーについて(メチルエフェドリンの記事のものです)
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通常の状態では、
- メチルエフェドリンなどの物質が交感神経終末に作用
- 交感神経終末からノルエピネフリン(以下:NE)が放出
- 放出されたNEがαやβ受容体に結合
- 交感神経刺激作用が起こる
のですが…この状態が続くと交感神経終末からNEが出続けて、交感神経終末内のNEが枯渇してしまいます。
こうなるといくらメチルエフェドリンなどの物質が交感神経終末に作用してもすでにNEの在庫がなく、交感神経刺激作用が起きません。
これがタキフィラキシーです。ざっくりですけど。
α刺激作用は、血管や前立腺の収縮、散瞳などを起こします。
効果や使用方法
効果
主にβ2刺激作用による気管支拡張です。
気管支を広げることで呼吸を楽にします。
中枢性の鎮咳作用があるかどうかは確認できませんでした。
同じような気管支拡張薬としてメチルエフェドリンがあります。
メチルエフェドリンには中枢性の鎮咳作用もありますが、メトキシフェナミンの添付文書やインタビューフォーム、海外の文献にはそういう記載は見当たりませんでした。
(そもそもインタビューフォームが情報スカスカで役に立ちませんけど)
現在使われている気管支拡張薬は主に選択的β₂刺激薬で、心臓にはあまり作用せず気管支に強く作用するものが使われています。
このメトキシフェナミンは心臓への影響があるため、現在は日本ではあまり使われてないですね。今は市販薬で少し使われているくらいです。
ただ、中国では今でも医療用医薬品として処方されている例があります。
たとえば、2023~2024年にかけて行われたCOVID後の咳に関する臨床研究では、メトキシフェナミンの配合カプセルが最も多く処方され、ICS/LABA(ステロイドとβ刺激薬の吸入)に次いで効果を示したと報告されています(Characterization and clinical outcomes of outpatients with subacute or chronic post COVID-19 cough: a real-world study)。
日本ではあまり見かけなくなった成分ですが、国によってはまだ現役の咳止めとして使われてるんですね。
あと、慢性閉塞性肺疾患のラットでの抗炎症作用が報告されている研究もあります(「Anti-inflammatory effect of methoxyphenamine compound in rat model of chronic obstructive pulmonary disease」)。
ただし、ヒトにおける明確なエビデンスはなく市販薬では単純に咳止めの成分として利用されています。
気管支の炎症を抑える効果はあてにしない方がいいでしょうね。
医療用の使用例
以前は感冒、気管支喘息、気管支炎、上気道炎などに使用されていました。
医療用では「アストーマ配合カプセル」というのがありましたが、これは2023年に販売中止になっています。
また、メトキシフェナミン単独の薬もあったのですが、これも2018年3月に経過措置が終了してますね。
ということで、現在はメトキシフェナミンを含む医療用の医薬品はありません。
用法・用量
市販薬の場合は鎮咳去痰薬にしか配合されていないと思いますが、
1回50mg・1日150mg
が最大量となっています。
医療用のは現在は存在しませんが、
「メトキシフェナミン塩酸塩100mg「トーワ」」は
1回50~100mg・1日3回
という使い方でした。
発作時にも使えたようですね。最大で1日500mgまでとなっていました。
「アストーマ配合カプセル」は
1回50~75mg・1日3回
となっていました。
使用上の注意点
「メトキシフェナミン塩酸塩100mg「トーワ」」の添付文書、インタビューフォームを参考に書かせていただきます。
禁忌
禁忌はありません。
服用注意な人
・甲状腺機能亢進症
・高血圧症
・心疾患
・糖尿病
このような疾患のある方は、それぞれの症状が悪化する可能性があるので一応注意してください。
通常用量を短期間使う程度で問題になることはないと思います。
副作用
インタビューフォームを見ても、「本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない」となっていて、情報がほぼありません。
重大な副作用としては、
重篤な血清カリウム値の低下の可能性があります。
キサンチン誘導体、ステロイド剤、利尿剤の併用によりβ₂刺激薬のカリウム低下作用が強まることがあります。
キサンチン誘導体は医療用だとテオフィリンやネオフィリンなどがあります。
市販薬でもカフェインやジプロフィリンを含むものがあるので注意してください。
ステロイド剤はここでは飲み薬についてだけですが、服用中の方は注意してください。
点鼻薬や塗り薬については気にしなくて大丈夫です。
利尿剤は高血圧や心疾患がある方に処方されている可能性が高いので、そういうので通院してる方は注意してください。
その他の副作用については以下のようになっています。
頻度不明 | |
循環器 | 心悸亢進、血圧変動、不整脈、頻脈等 |
精神神経系 | 頭痛・頭重、悪寒、不眠、めまい、発汗、神経過敏、眠気、ほてり、不快、不安、違和感等 |
消化器 | 悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛、便秘等 |
過敏症 | 発疹等 |
その他 | 口渇、息苦しさ |
作用上、動悸は出やすいかと思います。
過度に使用を続けた場合は不整脈、場合によっては心停止を起こすおそれがあります。
特に心疾患のある方は注意してください。
相互作用
併用禁忌はありません。併用注意が少しあります。
併用注意
薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
---|---|---|
カテコールアミン製剤 エピネフリン イソプロテレノール等 | 不整脈、場合によっては心停止を起こすおそれがある。 | 交感神経刺激作用における相加・相乗作用によると考えられる。 |
主に心不全やショック、徐脈に使うものですね。
「ボスミン」はクループ症候群にも使いますが主に小児ですね。
添付文書に載っているのはこれだけでした。
ただ、作用上以下の薬との併用も注意してください。
メチルエフェドリンと同じものを載せておきます。
薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
---|---|---|
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤 セレギリン塩酸塩 ラサギリンメシル酸塩 サフィナミドメシル酸塩 | 作用が増強されるおそれがあるので、減量をするなど慎重に投与すること。 | これらの薬剤のMAO-B選択性が低下した場合、交感神経刺激作用が増強されるおそれがある。 |
甲状腺製剤 チロキシン リオチロニン等 | 作用が増強されるおそれがあるので、減量をするなど慎重に投与すること。 | これらの薬剤が心臓のカテコールアミンに対する感受性を増大するおそれがある。 |
キサンチン誘導体 テオフィリン ステロイド剤 プレドニゾロン 利尿剤 アミノフィリン | 血清カリウム値が低下するおそれがある。 併用する場合には定期的に血清カリウム値を観察し、用量について注意すること。 | 相加的に作用(血清カリウム値の低下作用)を増強する。 β2刺激剤はcAMPを活性化しNa-Kポンプを刺激する。 |
併用注意についての簡単な説明
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・モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬はパーキンソン病に使われています。
MAOにはAとBがあり、Aがノルエピネフリンとセロトニン、Bがドパミンを分解します。
MAO-Bを阻害することでドパミンの分解を阻害してパーキンソンの症状を抑えるのに使うのですが、その選択性が低下した場合、つまりMAO-Aも阻害してしまうとノルエピネフリンが増えて、交感神経刺激作用が強くなります。
・甲状腺製剤は甲状腺機能低下症に使うものです。
「チラーヂンS(レボチロキシン)」「チロナミン」があります。
(チロナミンっていうのは見た事ないけど)
・キサンチン誘導体は気管支喘息に使います。
主に「テオフィリン」ですね。先発名だと「テオドール」や「ユニフィル」です。
気管支喘息で治療中の方はすでにβ刺激薬を使っている可能性が高いので、市販の咳止めは使わない方が良いでしょう。
・ステロイド剤はホントにいろいろ使います。
飲み薬だと「プレドニン」「プレドニゾロン」「リンデロン」「デカドロン」「コートリル」「レダコート」「セレスタミン」などがあります。
・利尿剤は高血圧や浮腫に使われます。
利尿剤はカリウムを低下させるものと上昇させるものがあります。ここで問題にしてるのは低下させる方ですね。
アミノフィリンはキサンチン誘導体でもあり利尿剤としても使います。
あと、上には載ってないですが、一応カフェインもキサンチン誘導体になります。
利尿作用は知られているところですし、昔は喘息にも使われていましたね。
ここに書いてあることはあまり気にしなくて大丈夫ですが、上記の薬を服用中の方は「一応そういう可能性もあるんだな」と思っておいてください。
特に気管支喘息治療中の方はβ刺激薬が重複してしまう可能性があるので注意してください。
吸入薬としてステロイドと一緒になっている事が多いはずです。
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