
「オメプラゾール」についての簡単な解説です。
オメプラゾールを含む市販薬の製品一覧
解説記事を書いたことのある製品を載せています。
胃薬
クリック・タップで開きます。
分類・作用機序
オメプラゾールの化学構造式

分類
胃酸を抑える薬ですが、その中でも「PPI」と呼ばれる薬です。
「Proton pump inhibitor(プロトンポンプインヒビター:プロトンポンプ阻害薬)」の頭文字をとって「PPI」です。
消化性潰瘍治療薬の一つですね。
作用機序
胃酸分泌のメカニズム
先にちょっと胃酸の話から。
胃酸は主に3つの物質によって分泌されます。

- ガストリン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがそれぞれの受容体に結合
- ガストリン→ガストリン(CCK₂)受容体に結合しCa²⁺上昇
- アセチルコリン→ムスカリン(M₃)受容体に結合しCa²⁺上昇
- さらに、ガストリンやアセチルコリンはECL細胞を刺激しヒスタミンを放出
- ヒスタミン→ヒスタミン(H₂)受容体に結合しcAMP上昇
- Ca²⁺やcAMPがプロトンポンプを活性化
- プロトンポンプによりK⁺が取り込まれてH⁺が放出
- Cl⁻チャネルから出ているCl⁻とH⁺がくっついてHCl(塩酸)に
このHCl(塩酸)が胃酸そのものですね。
(胃酸やペプシノーゲンやペプシン、胃を保護する胃粘液などが混じったものを胃液と呼びます)
ちなみに、それぞれの物質が「なんで出てくるか」ですが、
- ガストリン
- 食物が胃に入って胃壁が引き伸ばされたり、食物(特にタンパク質)が部分的に分解されてできたアミノ酸やペプチドがG細胞に触れるとG細胞から分泌
- アセチルコリン
- 食物の匂いをかいだり食べることを考えたりする(脳相)、食物が胃に入ったことによる物理的な刺激(胃相)によって迷走神経の末端から分泌
- ヒスタミン
- ガストリンやアセチルコリンがECL細胞(壁細胞の周りにある別の細胞)を刺激することで分泌
という感じです。物理的な刺激だけでなく匂いや思考するだけでも出てくるんですね。
胃酸には主に以下の働きがあります。
- 殺菌
- 微生物のほとんどを殺す。感染症の予防になってるんですね。
- ペプシノーゲンの活性化
- 胃の主細胞から分泌されるペプシノーゲン(不活性)の末端を切り離しペプシン(活性型)にする。
- このペプシンはタンパク質を分解して吸収しやすくしてくれます。
- 食物の消化
- タンパク質の立体構造を壊して、ペプシンが分解しやすくする。
ということで体にとってはとても重要なのですが、胃酸が過剰に分泌されると胃が荒れたり、食道の方に逆流してきて食道に炎症を起こしたりします。
PPIの働き
PPIは胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプの働きを阻害することで胃酸の分泌を抑えます。
薬を飲んでからの動きとしては
- 腸から吸収されて血中へ
- 胃の壁細胞内に到達、分泌細管(強い酸性環境)に集まって活性体になる
- 活性体がすぐにプロトンポンプにくっつき働きを阻害
- プロトンポンプからプロトン(H⁺)が出てこなくなる
- 塩酸(胃酸)が作られない
という感じ。
PPI自体は酸に対して非常に不安定で、すぐに分解されてしまいます。
酸により活性体となるのですが、その活性体も不安定です。
なので、PPIをそのまま飲むと胃に入ったところで活性体になるのはなるのですが、壁細胞に到達する前に分解されてしまうんですね。
ということで、PPIはオメプラゾールに限らずすべて腸溶性(胃では溶けずに腸で溶ける)となっています。
錠剤を嚙み砕いたりすり潰して飲むと、腸で吸収される前に分解されてしまうので注意してください。
血中から壁細胞に出てきたPPIは酸により活性体になった後、すぐにプロトンポンプに結合します。
PPIが結合したプロトンポンプはタンパクの構造自体が変化して機能を停止します。「働きを阻害」と書きましたが「破壊」に近いでしょうか。
プロトンポンプは回転ドアみたいにK⁺を細胞内に入れてH⁺を外に出すのですが、この回転ドア自体を動かなくしてしまうんですね。
つまり、PPIが結合したプロトンポンプは基本的には二度とHCl(塩酸)を作れません。新しくプロトンポンプが作られるまで時間がかかるため、PPIは長時間効果を発揮するんですね(元々、プロトンポンプは毎日約25%程度が新たに産生されるそうだけど)。
(他のPPIの「ラベプラゾール」はまたちょっと違う可能性があります。それはラベプラゾールの記事に書いておきます)
あと、血中のPPIは代謝酵素によって分解されるので、壁細胞に到達するのはそれを逃れたものですね。
PPIは全般的に半減期が短め(オメプラゾールは2時間くらい)ですが、効果を発揮するのは血中の成分ではなくてプロトンポンプに結合した成分なので、その効果は血中濃度に依存しません。
血中に残ったPPIは代謝酵素によりすぐに分解されるので体に蓄積しにくいというのも利点ですね。
(補足)H₂ブロッカーとの違い
似たような薬で「H₂ブロッカー」という薬があります。これも胃酸を抑える薬としてよく使われています。
違いとしては
| PPI | H₂ブロッカー | |
|---|---|---|
| 胃酸を抑える強さ | 強い | PPIよりは弱い |
| 効き目の早さ | 数日~1週間かかる | 即効性 |
| 効き目の長さ | 長い (基本は1日1回) | 短い (基本は1日2回) |
| 抑えるのが 得意な胃酸 | 食後の胃酸 | 夜間の胃酸 |
| 適した症状 | 継続的な胸やけ・もたれ | 急な胃痛・胸やけ |
| 耐性 | ない(たぶん) | ある |
| PPI | H₂ブロッカー | |
|---|---|---|
| 胃酸を 抑える強さ | 強い | PPIよりは弱い |
| 効き目の早さ | 数日~1週間かかる | 即効性 |
| 効き目の長さ | 長い (基本は1日1回) | 短い (基本は1日2回) |
| 抑えるのが 得意な胃酸 | 食後の胃酸 | 夜間の胃酸 |
| 適した症状 | 継続的な胸やけ・ もたれ | 急な胃痛・ 胸やけ |
| 耐性 | ない(たぶん) | ある |
ザックリだとこんなところでしょうか。細かい事だとたくさんありますけど。
H₂ブロッカーは「ヒスタミン(H₂)受容体」の働きを阻害することで、ヒスタミンによる胃酸分泌を抑える薬です。
ただ、ヒスタミンの働きを抑えてもガストリンやアセチルコリンの働きは抑えられません。
胃のpHが上がる(胃酸が減って胃の酸性度が下がる)と、ガストリンの分泌が促進されます。
「胃酸が減ってる…⁉もっと胃酸を出さなきゃ!」となるわけです。
で、このガストリン自身も胃酸の分泌を促します。
H₂ブロッカーを数週間服用してると効果が半減してきますが、これはそのためですね。耐性ができてしまいます。
PPIを服用しててもH₂ブロッカーと同じようにガストリンの濃度は高くなります。
ただ、ガストリンの濃度が高くなっても最終段階のところを止めてるので胃酸の分泌を抑えることができます。
このため、PPIはH₂ブロッカーよりも強力に胃酸分泌を抑えることができ、耐性も生じにくくなっています。
ただ、PPIの効果が安定するには数日はかかります。「今この瞬間胃が痛いの!」というときはH₂ブロッカーの方が速く効くので良いでしょうね。
PPIは主に食後の胃酸分泌を強力に抑えます。夜間の胃酸分泌はH₂ブロッカーの方が強く抑えるので、状況によって使い分けると良いでしょう。
といっても、PPIでも夜間の胃酸分泌はちゃんと抑えられるので、夜間や朝方に胃が痛くなる、胸やけするという人は朝ではなくて寝る前に服用してみるのも良いでしょうね。
効果や使用方法
効果
胃酸の分泌を減らすことで、胃酸による症状を緩和することができます。
・胃酸によって胃が荒れることで起きる胃痛
・胃酸が食道の方に逆流して起こる胸やけ
などですね。
市販されているPPIは3製品ありますが、このオメプラゾールは特に効き目に個人差が出やすくなっています。
「CYP2C19」という代謝酵素によって代謝(分解)されるのですが、この酵素の活性に個人差があるんですね。
日本人の場合は5~6人に1人くらいがCYP2C19の活性が弱いそうで、そういう人は「オメプラゾールが分解されにくい=血中濃度が高く維持される=効果が強くなる」ということになります。
なので、どちらかというと効き目が強く出る人がいると。
(逆に、CYP2C19の活性が強い人ってのはあまりいません(少しはいる)。大体は普通)
効き目が強くなるだけなら良いのですが、肝機能障害や下痢などの副作用が出やすくなると思うので注意してください。
気になる方は「ラベプラゾール」という成分の方が個人差が出にくくなっているので、そっちを選ぶのも良いでしょう。
蛇足
「消化性潰瘍治療薬」は、
・攻撃因子抑制薬
・防御因子増強薬
の2つに大別されます。
攻撃側(胃酸)が防御側(粘液・粘膜)より優勢になったときに胃に炎症や潰瘍ができてしまいます。
なので、「攻撃力を下げる」か「防御力を高める」か、どちらかをする必要があります。
PPIは胃酸を抑えるので、攻撃因子抑制薬の一つですね。
PPI以外では「H₂ブロッカー」や「抗コリン薬」、「制酸剤」、「P-CAB」などがあります。
H₂ブロッカーはさきほど書いたやつです。ヒスタミンの働きを抑えることで胃酸の分泌を抑えます。
一番古いH₂ブロッカーがなんなのかは知りませんが、「タガメット」という薬は1982年に販売開始されてますね。
抗コリン薬はアセチルコリンの働きを抑えるものですね。H₂ブロッカーが出る前はこれが主流だったのかな?
あとは酸化マグネシウムなどの制酸剤でしょうか。
「H₂ブロッカーが出る前は、胃潰瘍になったら胃を切除するしかなかったんだよね」と消化器科の先生が言ってましたし、抗コリン薬や制酸剤は胃酸の分泌を抑えることに関してはあまり効果がなかったんでしょうね。
(抗コリン薬はどちらかというと消化管の痙攣を抑えるのに使います)
近年は「P-CAB」という種類の薬が出てきました。今のところは「タケキャブ」という名前のものしかありませんけど。
作用はPPIと似ていてプロトンポンプの働きを抑えるものですが、PPIよりも強力かつ即効性もあるということで最初からこれが使われることも多くなってきましたね。
医療用の使用例
医療用医薬品の先発品は「オメプラール」「オメプラゾン」という名前です。
(市販薬は『オメプラールS』ですね。「S」がなんなのかは分かりませんが「スイッチOTC」のSとかでしょうか)
主に
・胃・十二指腸潰瘍
・逆流性食道炎(と、その維持療法)、胃食道逆流症
に使われています。
ただ、「胃が痛くて…」と受診したら「ちょっとこれで様子みて」と処方されることも多いです。
潰瘍じゃなくても使いますね。市販薬も「胃痛、胸やけ、もたれ」になってますしね。
一応、ピロリ菌の除菌の適応もあるのですが、それ目的で使われているのは自分は見たことがありません。
他のPPI(またはP-CAB)で抗菌薬とセットになったのがあるので、基本はそちらを使いますね。
他にもいろいろ書いてたら長くなったので折り畳みにしておきます。
ピロリ菌とPPI(除菌後の注意点)
ピロリ菌がいることが分かったら早めに除菌するに越したことはありません。
かわいい名前をしていますが、これが胃がんの第一要因であることは疑いありません。
ピロリ菌は胃内の尿素をアンモニアに分解します。このアンモニアはアルカリ性なので塩酸を中和します。ピロリ菌は自身の周囲の塩酸を中和することで胃の中で生きられるんですね。
また、ピロリ菌の感染が長期になると慢性胃炎(特に萎縮性胃炎)を起こし、胃の壁細胞が壊されます。
つまり胃酸の分泌が減ります。
さらにピロリ菌はソマトスタチンという物質を増やします。ソマトスタチンは胃のpHが下がる(酸性度が上がる)と分泌されるもので、ガストリンの分泌を抑えることで胃酸を減らす方向に働きます。
で、このピロリ菌を除菌するとどうなるか?
ピロリ菌がいなくなったことで胃の壁細胞は元気になって胃酸の分泌は増えます。
ピロリ菌がいなくなっても、今度は増えた胃酸によって胃や食道に負担がかかることがあります。
なのでピロリ菌を除菌した後もPPIやH₂ブロッカーを手放せない人がいます。
朝にPPIを、夜にH₂ブロッカーを服用することもありますね。
「じゃあピロリ菌は除菌しない方がいいのか?」という事には絶対になりませんけど。いると分かった時点で除菌した方が良いですし、医師からも勧められると思います。
GERD(胃食道逆流症)咳嗽(胃酸で咳が出るケース)
あと、「咳が出る」ということで処方されることも度々あります。
逆流によって胃酸が喉のあたりまで上がってきたり、ひどい場合は気管の方にいってしまうことがあります。そこで刺激になったり炎症を起こしたりして咳が出ることがあります。
また、胃と食道のつなぎ目あたりを刺激することで神経を伝って咳中枢を刺激して咳が出ることもあります。
この胃酸の逆流によって起こる咳を「GERD(胃食道逆流症)咳嗽」といいます(他の咳の原因を除外してですけど)。
GERD咳嗽は胃酸によって咳が出るのですが、「咳が出る」という事自体もまた胃酸を逆流しやすくします。
咳をすると腹圧がかかり逆流しやすくなるんですね。で、また咳が出るという悪循環です。
こういう症状の人にはPPIのような胃酸を抑える薬がよく効きます。
GERDと似たような症状で「NERD(非びらん性胃食道逆流症)」という病態もあります。
胃酸が逆流する症状があるにもかかわらず、食道に炎症やびらん(ただれ)がないタイプです。酸によるダメージが明確ではないため、PPIはGERDほどには効かないケースが多いようですね。
咳が続いてる人は「とりあえず市販の咳止めで…」で済まさず、受診して医師に相談してみてください。意外な原因があるかもしれません。
アルカリ性食道炎(膵液・胆汁の逆流)
また、胃を全摘していても逆流性食道炎の症状がある人がいます。
「アルカリ性食道炎」といって、胃酸の逆流ではなく膵液や胆汁の逆流によるものですね。
この場合は胃がないので胃酸は出ていないはずですが、PPIが効くことがあります。なんで効くのかは分かりません。
基本は膵液の働きを抑える薬を使うのですが、そういうのが効かない場合にPPIを使ったりします。
NSAIDsによる胃潰瘍の予防
NSAIDsという種類の薬があります。解熱鎮痛剤ですね。
ロキソニン(ロキソプロフェン)、イブプロフェン、ボルタレン(ジクロフェナク)などが有名でしょうか。
これらNSAIDsは発熱や痛み、炎症を抑える一方で、胃への負担が大きい薬の代表格ですね。
NSAIDsは「プロスタグランジン」という物質の産生を抑えます。
プロスタグランジンは胃酸の分泌を抑えたり、胃粘液や重炭酸の分泌を増やすことで胃粘膜を守ってくれています(プロスタグランジンの薬もあります。「サイトテック」というやつ)。
この働きが失われると、胃は胃酸に対して無防備になり潰瘍や出血のリスクが高まります。
実際にNSAIDsで胃潰瘍になった人はたまに見かけますね。
なので、NSAIDsを長期で使う場合や高齢者、抗血小板薬(低用量アスピリン)を服用している場合には、予防的にPPIが処方されることも多いですね。
アスピリンとPPI(ランソプラゾール)が一緒になった医薬品もあります(「タケルダ」)。
ただ、オメプラゾールだけはこれの適応がありません。他のPPIもP-CABも適応あるのに。
これは医療用の話ですが、同じ「PPI」でも少しずつ特徴が違うんですね。
ちなみに、NSAIDsで胃が痛くなるという人は、ちょっと弱いですがアセトアミノフェンにしておいた方が良いでしょう。
用法・用量
市販薬の場合は
15歳以上:1回10mg・1日1回
となっています。
PPIはこの薬に限らず、腸で溶けるように作られています。
噛んだり砕いたりすると胃酸で効果がなくなってしまうので噛み砕かずに服用してください。
服用する時間はいつでも良いのですが、できるだけ毎日同じくらいの時間に服用してください。
※PPIは作用上は「食前(食事の30~60分くらい前)」の方が適していますし、「食前の服用が望ましい」という論文も複数あります。
ただ、市販薬ではそこまで気にしなくても構いません(食前の方が早く効くのは確か)。
PPIは基本的に効果が最大になるまで数日はかかるので、何日かは継続して服用する必要があります。
製品の添付文書には「3日間服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し~」と書いてますが、たぶん3日だと短いんじゃないかと思います。もうちょっと様子をみても良いでしょうね。
ただ、5日程度飲んでても改善しないのであれば結構ひどい症状だと思うので受診してください。
ちなみに、「効果が最大になるまで数日かかる」ということで、「すぐには効果が出ない、というわけではない」です。
医療用「オメプラール」の添付文書には
「効果発現時間:胃潰瘍患者にオメプラゾール20mgを1日1回朝食後に経口投与したとき、投与2~6時間後より胃酸分泌抑制効果が認められた」との記載があります。
また、製品の添付文書には「2週間を超えて続けて服用しないでください」との記載があります。
ただの胃炎や逆流ではなく、他の重大な病気の可能性もあります。症状が続く場合は必ず受診してください。
医療用の場合は、
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍・逆流性食道炎など:1日1回20mg
- 胃潰瘍・逆流性食道炎(維持療法除く):8週間まで
- 十二指腸潰瘍:6週間まで
- 再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法:1日1回10~20mg、期限なし
- ピロリ菌の除菌
- 1回20mg・1日2回7日間(抗菌薬と併用)
- 非びらん性胃食道逆流症:1日1回10mg、4週間まで
となっています。
基本的には期限が決められているんですよね。昔メーカーさんにこの事を訊いたら「それ以上試験してないから」とのことで、なにか明確な根拠があるわけではなさそうですけど。
ただ、なんだかんだ長期で服用してる人は多いですね。良いのか悪いのかは別として。
で、PPIが長期で使われてしまう理由の一つとしてリバウンドがあるかと思います。
上の「H₂ブロッカーとの違い」のところでも書きましたが、胃酸を抑えると胃のpHが上がります。
胃のpHが上がると、ガストリンが頑張ってしまいます。「もっと胃酸を出せ~!」と。
PPI服用中は、ガストリンがいくら頑張ろうが最終段階であるプロトンポンプを抑えているので胃酸はあまり増えません。
が、そこでPPIを飲むのをやめるとどうなるか?
ガストリン自体もポンプを活性化しますし、ガストリンによって分泌されてるヒスタミンによってもポンプは活性化されます(間接的に)。
結果的に、PPIを飲み始める前よりも胃酸の分泌が増えてしまう可能性があります。
PPIを長期服用中の方が「最近は調子が良いから薬をやめてみることになった」という事で一度中止になっても、「やっぱり飲んでないとダメみたい…」と薬を再開されることが多々ありますが、これのせいですね。
長期服用から中止する場合は、1日おきにするなど徐々に減量する方が良いでしょうね。
ただ、自己判断で減量するのは絶対にやめてください。医師と相談しながらですね。
もちろん、市販薬の場合は長期服用はしないでください。
※2025年10月現在、市販のPPIは3製品あります。それらをざっくり比較した記事もあるので興味ある方は読んでみてください。

使用上の注意点
医療用の「オメプラール」の添付文書、インタビューフォームを参考に書かせていただきます。
禁忌
リルピビリン塩酸塩を服用中の方
は服用できません。
抗HIV薬ですね。
商品名は「エジュラント」「オデフシィ」「ジャルカ」などがあります。
PPIによって胃酸が減って胃のpHが上がるとリルピビリンは吸収されにくくなります。
(なので、オメプラゾールに限らず他の胃酸を抑える薬も同様です)
上の薬を服用中の方は、胃の調子が悪いなら主治医に相談してみてください。
服用注意な人
・肝臓病
・胃・十二指腸潰瘍
製品の添付文書には、これらの診断を受けたことのある人は医師に相談を、となっています。
オメプラゾールは肝臓の代謝酵素で分解されるので、肝機能に問題のある人だと薬が体に残りやすくなります。
また、肝機能障害まではいかなくてもPPIは全般的に肝機能の数値が上がってしまうことはよくあります。
ということで、肝機能に問題がある方は注意してください。
胃・十二指腸潰瘍については、その診断を受けたことがある人は今回もその可能性がある、ということでしょうね。
市販薬を使うのではなく受診してください、という意味だと思います。受診しても同じ薬が処方される可能性もありますけど。
副作用
医療用「オメプラール」の胃・十二指腸潰瘍に使用したときのデータですが、
・ALT(GPT)上昇:0.38%
・AST(GOT)上昇:0.21%
・γ-GTP上昇:0.13%
・白血球減少:0.18%
・下痢・軟便:0.18%
となっています。
全体的に副作用は少なめ。安全性は高いですね。
まれに重い皮膚症状が出ることもあります。広範囲の発疹・発赤、口の中に水疱ができるなどあればすぐに受診を。
その他の副作用については以下のようになっています。
(「オメプラール」の添付文書のまま)
| 0.1~5%未満 | 0.1%未満 | 頻度不明 | |
| 過敏症 | 発疹 | 蕁麻疹 | 多形紅斑、光線過敏症、そう痒感 |
| 消化器 | 下痢・軟便、便秘、 悪心 | 嘔吐、鼓腸放屁、 腹痛、口内炎 | 舌炎、顕微鏡的大腸炎(collagenous colitis、lymphocytic colitis)、腹部膨満感、カンジダ症、口渇 |
| 肝臓 | AST、ALT、Al-P、γ-GTP 、LDHの上昇 | ||
| 血液 | 白血球数減少、血小板数減少、貧血 | ||
| 精神神経系 | 頭痛 | 眠気、しびれ感 | めまい、振戦、傾眠、不眠(症)、異常感覚、うつ状態 |
| その他 | 発熱 | 脱毛、倦怠感、 関節痛 | 頻尿、味覚異常、動悸、月経異常、筋肉痛、発汗、筋力低下、低マグネシウム血症、霧視、浮腫、女性化乳房、及びBUN、クレアチニン、尿酸、トリグリセライド、血清カリウム、総コレステロールの上昇 |
肝臓のところのAST上昇とかが頻度不明になってますね。なんでかは分かりません。
議論されているもの
オメプラゾールに限ったことではなくて、PPI全体を通して議論されているものを書いておきます。
骨折
海外での研究では、高用量および長期間(1年以上)の治療を受けた人で骨折のリスクが増加した、ということです。
ただ、これはまだよく分からなくて、
「骨折リスクは増大しない」「PPIはカルシウムの吸収には影響しない」という論文もあります。
(“Proton Pump Inhibitors and Risk of Bone Fractures”より)
また、「喫煙歴のある女性ではPPI使用と骨折リスクの関連が見られたが、喫煙歴のない女性では関連が見られなかった」という報告もあります。
(”Use of proton pump inhibitors and risk of hip fracture in relation to dietary and lifestyle factors: a prospective cohort study”より)
今のところ明確なエビデンスはない状況ですね。
「PPIを使うような症状がある人は、もともと骨折しやすい体質や生活習慣がある」といったところでしょうか。
ただ、リスクが増加したという報告があった以上、なにかしら関係がある可能性もあります。
市販薬の場合は短期間の使用にとどめておくのが無難でしょうね。
胃がん・大腸がん
ここもいろいろと言われていますが、いまいちハッキリしません。
香港での研究では、ピロリ菌除菌後にPPIを長期間服用した患者は、H₂ブロッカーを服用した患者と比べて、胃がんリスクが2倍以上に増加した、との報告があります。
(”Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study”より)
東大でも同じような研究がありましたね。やっぱりH₂ブロッカーに比べて胃がんリスクは増大すると。
ピロリ菌に感染していない人だとどうなのか?というデータを探したのですが見つかりませんでした。
ピロリ菌が胃がんのリスク要因の第一位であることは間違いないかと思います。つまり、ピロリに感染した時点で胃がんのリスクは高まります。ピロリ除菌後もそのダメージは残っていて、そこがガン化するということもあるでしょう。
PPIやH₂ブロッカーを使うと胃内のpHが上がりますが、フィードバックによりガストリンの分泌は高まります。
(胃のpHが上昇すると胃酸を増やそうとしてガストリンが増える)
このガストリンが胃がんの発生リスクを高めるのかもしれません。わかりませんけど。
H₂ブロッカーの方が胃がんのリスクが低いというのは、PPIよりも胃酸を抑える作用が弱く、ガストリンの濃度がそれほど上昇しない、という事もあるかと思います。
ただ、高ガストリン血症だとカルチノイド(がんもどき。良性の腫瘍)が発生する可能性があるのですが、PPIの長期投与ではカルチノイドの発生は認められなかったという話もあります。
今のところはハッキリしたことは分かりませんが、自分の判断で長期に使用するのはやめておいた方が良いでしょうね。
相互作用
医療用の「オメプラール」の添付文書のをそのまま載せておきます。
併用禁忌
| 薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
|---|---|---|
| リルピビリン塩酸塩 (エジュラント) | リルピビリン塩酸塩の作用を減弱するおそれがある。 | 本剤の胃酸分泌抑制作用によりリルピビリン塩酸塩の吸収が低下し、リルピビリンの血中濃度が低下することがある。 |
これは上の「禁忌」のところに書いてあるのと同じです。
併用注意
| 薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
|---|---|---|
| ジアゼパム フェニトイン シロスタゾール | これらの薬剤の作用を増強することがある。 | 本剤は主に肝臓のチトクロームP450系薬物代謝酵素CYP2C19で代謝されるため、本剤と同じ代謝酵素で代謝される薬物の代謝、排泄を遅延させるおそれがある。 |
| ワルファリン | 抗凝血作用を増強し、出血に至るおそれがある。プロトロンビン時間国際標準比(INR)値等の血液凝固能の変動に十分注意しながら投与すること。 | 本剤は主に肝臓のチトクロームP450系薬物代謝酵素CYP2C19で代謝されるため、本剤と同じ代謝酵素で代謝される薬物の代謝、排泄を遅延させるおそれがある。 |
| タクロリムス水和物 | タクロリムスの作用を増強することがある。 | 相互作用の機序は不明である。これらの薬剤の血中濃度が上昇することがある。 |
| メトトレキサート | 高用量のメトトレキサートを投与する場合は、一時的に本剤の投与を中止することを考慮すること。 | 相互作用の機序は不明である。これらの薬剤の血中濃度が上昇することがある。 |
| ジゴキシン メチルジゴキシン | これらの薬剤の作用を増強することがある。 | 本剤の胃酸分泌抑制作用によりジゴキシンの加水分解が抑制され、ジゴキシンの血中濃度が上昇することがある。 |
| イトラコナゾール | これらの薬剤の作用を減弱することがある。 | 本剤の胃酸分泌抑制作用によりこれらの薬剤の溶解性が低下し、これらの薬剤の血中濃度が低下することがある。 |
| チロシンキナーゼ阻害剤 ゲフィチニブ エルロチニブ | これらの薬剤の作用を減弱することがある。 | 本剤の胃酸分泌抑制作用によりこれらの薬剤の溶解性が低下し、これらの薬剤の血中濃度が低下することがある。 |
| ボリコナゾール | 本剤の作用を増強することがある。 | 本剤のCmax及びAUCが増加したとの報告がある。ボリコナゾールは本剤の代謝酵素(CYP2C19及びCYP3A4)を阻害することが考えられる。 |
| クロピドグレル硫酸塩 | クロピドグレル硫酸塩の作用を減弱することがある。 | 本剤がCYP2C19を阻害することにより、クロピドグレル硫酸塩の活性代謝物の血中濃度が低下する。 |
| セイヨウオトギリソウ (セント・ジョーンズ・ワート)含有食品 | 本剤の作用を減弱することがある。 | セイヨウオトギリソウが本剤の代謝酵素(CYP2C19及びCYP3A4)を誘導し、本剤の代謝が促進され血中濃度が低下することが考えられる。 |
併用注意についての簡単な説明
クリック・タップで開きます。
・ジアゼパムは抗不安薬です。先発名は「セルシン」や「ホリゾン」。
こどもの熱性痙攣によく使われる「ダイアップ坐剤」もジアゼパムですね。
・フェニトインはてんかんに使われる薬です。先発名は「アレビアチン」「ヒダントール」など。
フェニトインは相互作用がやたらと多いので、服用中の方は市販薬を使う前に必ず医師に相談した方が良いでしょうね。
・シロスタゾールは抗血栓薬です。先発名は「プレタール」。
出血しやすくなるので注意を。
・ワルファリンも抗血栓薬ですね。「ワーファリン」ってのもあります。
これも出血しやすくなるので注意を。
・タクロリムスは免疫抑制剤です。「プログラフ」「グラセプター」などがあります。
塗り薬のもあるのですが、そっちは気にしなくて良いでしょう。
・メトトレキサートも免疫抑制剤です。よく使われるのは関節リウマチですね。
作用機序は不明。CYP2C19とあまり関係ないラベプラゾールでも併用注意になっていますが、P-CABやH₂ブロッカーは併用注意になってません。
・ジゴシン・メチルジゴキシンは強心薬です。今は心房細動を併発してる心不全の脈のコントロールに使われるくらいでしょうか。
これらの薬の中毒はあらゆる不整脈が起こりえます。他のを使った方が安心かも。
・イトラコナゾールは飲み薬の抗真菌薬です。爪の水虫で使ってる人もいるかも?
・チロシンキナーゼ阻害剤は抗がん剤です。医師に相談を。
・ボリコナゾールは抗真菌薬です。自分は見たことないかも。
この薬に限らず抗真菌薬は相互作用が多いものが多いです。外用は気にしなくて良いんですけどね。
・クロピドグレル硫酸塩は抗血栓薬です。先発名は「プラビックス」。
循環器科でも脳外科でも使用頻度は高め。CYP2C19によって活性化するので、オメプラゾールによって効果が弱くなってしまいます(競合的に阻害する)。
梗塞が再発する危険性があるので他の胃薬にした方が良いでしょうね。医師が相互作用を知らない場合もあるのでご自身でも注意を。
・セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品は健康食品として売られているものですね。
気分をリラックスしたり抗うつ作用があったりします。
ただ、セントジョーンズワートは特にCYP3A4という代謝酵素を誘導(酵素がたくさんできちゃう)してしまうので、なかなか使いにくいですね。薬を服用している方は注意してください。
で、以上が添付文書に書かれているものなのですが、セントジョーンズワート以外は処方薬です。
なので上の表の薬を飲んでるという事は必ずどこかに通院しているはずなので、胃の調子が悪かったらかかりつけの病院で相談してみると良いでしょうね。
あと、市販の便秘薬で「酸化マグネシウム」が入ったものがありますが、これは胃酸を抑えると効果が落ちることがあります。
酸化マグネシウムを1日1回飲んでいる方は、酸化マグネシウムを飲んでから1時間程度は空けてPPIを飲むと良いでしょう。
コメント