「デキストロメトルファン」の解説 
作用・使用上の注意・製品一覧

「デキストロメトルファン」についての簡単な解説です。

目次

デキストロメトルファンを含む市販薬の製品一覧

解説記事を書いたことのある製品を載せています。

※ここでご紹介している製品がすべてではありません。
あと、すでに製造中止になっている製品もあるかもしれません。
そのへんはご了承くださいますようお願い申し上げます。

風邪薬(総合感冒薬)

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製品名をクリック・タップすると、その製品の解説記事にいきます。

製品名1日あたりの成分量
エスタック総合感冒48mg
新コンタックかぜ総合48mg
新コンタックかぜ
EX持続性
48mg
新ルルAゴールドDXα48mg
ストナファミリー45mg
ベンザブロックIP
プレミアムDX
48mg
ベンザブロックL
プレミアムDX
48mg
ベンザブロックS
プレミアムDX
48mg
ベンザブロック
YASUMO
48mg

デキストロメトルファンの臭化水素酸塩水和物は、
市販の風邪薬に配合できる最大用量が1日48mgになります。
(「かぜ薬の製造販売承認基準」より)

大体の製品には48mg/日入っていますね。

総合感冒薬(かぜ薬)の一覧表もあるので見てみてください。
製品ごとの主要成分も載せています。

鎮咳去痰薬

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製品名をクリック・タップすると、その製品の解説記事にいきます。

製品名1日あたりの成分量
新コンタックせき止め
ダブル持続性
60mg
パブロンせき止め
トリプル錠
60mg
プレコール持続性
せき止めカプセル
60mg
メジコンせき止め錠Pro90mg

デキストロメトルファンの臭化水素酸塩水和物は、
市販の鎮咳去痰薬に配合できる最大用量は1日60mgになります。
(「鎮咳去痰薬の製造販売承認基準」より)

『メジコンせき止め錠Pro』は90mg入ってますが。

分類・作用機序

デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の化学構造式

「メジコン」の添付文書より

分類

いわゆる「咳止め」ですが、
その中でも「中枢性非麻薬性鎮咳薬」に分類されます。

化学構造や作用の一部が麻薬性鎮咳薬に似ていますが、麻薬としての作用はありません。

右が「麻薬性」鎮咳薬のジヒドロコデイン。似てるでしょ?

インタビューフォームには「強い鎮咳作用を有するが、麻薬としての作用をもたない」との記載がありますが、注意点は麻薬と似たようなものになります。これについては後述します。

ちなみに、「濫用等のおそれのある医薬品」に含まれません。
濫用されてるんですけどね。

作用機序

脳にある咳中枢を抑制することで咳を抑えます。

咳は本来、肺や気管などの呼吸器を守るために、外から入ってきた異物(ほこりやウイルスなど)を外に追い出す生体防御反応です。

気道粘膜上のセンサーが異物を感じ取ると、脳の咳中枢に信号が送られて咳が出ますが、この信号を抑えることで咳を鎮めるんですね。

デキストロメトルファンの鎮咳作用は、コデインと比較して同等であるとされています。
同じ量であればジヒドロコデインの方が強いですね(ジヒドロコデインはコデインの1.4倍)。
これについては「効果」のところに少し詳しく書いておきます。

あと、NMDA受容体拮抗作用というのがあり、鎮痛補助剤としても使われる事があります。
(神経の過敏な信号伝達を抑えることで、慢性痛や神経性の痛みに対する補助効果を発揮します)
これは麻薬の鎮痛作用とは違うものになりますね。

ジヒドロコデインと違いオピオイド受容体への作用はないとされているため、麻薬には分類されません。

効果や使用方法

効果

咳を抑える効果があります。

風邪のほとんどは上気道のウイルス感染で、そのウイルスを追い出すために咳が出るわけです。
なのでその咳を止めてしまうと逆に悪化して、気管支炎や肺炎になる可能性もあります。

また、デキストロメトルファンは急性上気道炎に対するはっきりした有効性が示されていません
成人では鎮咳作用はほとんど示されず、乳幼児でもプラセボ(偽薬)と差がない事が分かっています。

一応、ラットにおいてのデータがあります。モルヒネは無視してください。

「ジヒドロコデインリン酸塩「タケダ」原末」のインタビューフォームより

簡潔な表にするとこんな感じになります。
コデインの鎮咳作用を「1」とした場合です。

成分鎮咳作用
コデイン1
ジヒドロコデイン1.4
ノスカピン0.7
デキストロメトルファン0.35
あくまで目安です。

これの通りだとすると、デキストロメトルファンはコデインとは全然同等ではないですね。約1/3程度の強さです。
ジヒドロコデインと比較すると約1/4。ただ、使う量が多いんですよね。

デキストロメトルファンの1日最大量は90mgです(市販薬では基本的には60mgですが)。
単純に上の表の通りにジヒドロコデインに換算すると、22.5mgとなります。

医療用の「メジコン」のインタビューフォーム(情報提供書)では、急性上気道炎への有効性は97.3%となっています。ただ、これは1970年代のデータですね。いまだにこれが記載されたままになっています。
この試験はプラセボとの比較ではなく、飲んだ人が「効いたよ」といえば「有効!」となっている感じです。

プラセボと比較した研究があるのですが、デキストロメトルファン、プラセボともに、
「咳の音圧・頻度・主観的な咳の重症度が時間とともに有意に減少」
「しかし、両群間での効果の差はほとんど認められず
となっています。
(「Antitussive efficacy of dextromethorphan in cough associated with acute upper respiratory tract infection」を要約してます)

また、他の咳止めでの研究になりますが、急性上気道炎に対して「去痰薬」「去痰薬+咳止め」で比較した場合、「去痰薬+咳止め」の方が症状を遷延させる可能性がある、という結果が出ています。
(「急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果」より)

つまり、急性上気道炎に対しては去痰薬だけ使った方が治りが早い可能性がある、ということですね。

「対症療法の効果は高くない」とか「エビデンスに乏しい」などやわらかい言い方をされますが、あまり効果は期待できないと思って良いでしょう。

使うとすれば感染後咳嗽(風邪の他の症状が治まった後に咳だけが続いてる)とかでしょうか。
痰が絡んだ咳には使わない方が良いです。

風邪をひいた時でも軽めの咳であれば、咳止めは使わないで様子を見た方が良いかと思います。
ただの風邪であれば数日~1週間程度で良くなるはずですし。

ただ、激しい咳の場合は体力の消耗が激しいし、咳のし過ぎで肋骨を折る人もいるし、このご時世だと周りの目も気になるでしょう。あと夜に咳が出て寝付けない、というときには有効かもしれないですね。
この辺は人それぞれのさじ加減になりますが、薬を使う意義もあるかもしれません。

というか、激しい咳が出るなら病院に行ってください。ただの風邪ではない可能性もあります。

医療用の使用例

基本的には痰の絡んでいない咳に使いますが、痰がある場合でも去痰薬と一緒に処方される事が多いですね。

あと、妊娠中や授乳中でも比較的安全に使えるので、そういう方への処方も多いかと思います。

シロップ剤もあるので小児にも使えますね。

用法・用量

市販の風邪薬だとほとんどの製品は
1回16mg1日3回(1日48mg)
となっていますね。

鎮咳去痰薬では
1回15~20mg・1日3回(1日45~60mg)
が多いでしょうか。
(『メジコンせき止め錠Pro』はなぜか1日90mgとなってます)

デキストロメトルファンフェノールフタリン塩というのもあり、こちらはトローチ剤とかに使われますね。
これは1日72mgまでとなっています。

医療用では通常は
1回15~30mg1日1~4回(最大1日120mg)
となっています(臭化水素酸塩水和物として)。
大体は1回2錠・1日3回が多いかな?

使用上の注意点

副作用

重大な副作用として呼吸抑制を起こすことがあります(0.1%未満)。

起きやすい副作用は、

  • 吐き気(0.96%)
  • めまい(0.37%)
  • 眠気(0.33%)
  • 便秘(0.22%)

といった感じです。()内の数字はインタビューフォームによるものです。

呼吸抑制も含めて、このへんは麻薬性鎮咳薬と共通してますね。

医療用の「メジコン」の添付文書には、
眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること
の記載があります。初めて飲むときは注意してください。

また、過量服用により嘔気、嘔吐、尿閉、運動失調、錯乱、興奮、神経過敏、幻覚、呼吸抑制、嗜眠等を起こすことがあります。
添付文書には、上記の過量投与の症状は「ナロキソンの投与により改善したとの報告がある」との記載があります。

ここからは個人的な考察ですが…

ナロキソンはオピオイド受容体において麻薬性鎮痛剤の作用を競合的に拮抗することにより、「麻薬による呼吸抑制ならびに覚醒遅延の改善」に使う薬です。

「オピオイドへの作用がない」にも関わらず「ナロキソンで改善」したのであれば矛盾するように思えますが、ナロキソンが内因性オピオイドであるエンドルフィンの作用を抑制した可能性も考えられます。

また、デキストロメトルファンのNMDA受容体拮抗作用やセロトニン再取り込み阻害作用との複雑な相互作用も関与していると推測されます。

NMDA受容体拮抗薬は認知症の薬(メマンチン)としても使いますし、神経系への影響もあるのは確かでしょう。

デキストロメトルファンは複数の作用機序を持つため、過量服用時の症状は単一のメカニズムでは説明しきれないものがありますね。

用法・用量を守っていれば安全な薬ではあります。

相互作用

併用禁忌のものはありませんが、いくつか併用注意のものがあります。

医療用の「メジコン」の添付文書に書いてあるものをそのまま載せておきます。

スクロールできます
薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
選択的MAO-B阻害剤
 セレギリン塩酸塩
 ラサギリンメシル酸塩
 サフィナミドメシル酸塩
セロトニン症候群があらわれることがある。本剤及びこれらの薬剤は脳内のセロトニン濃度を上昇させる作用を有するため、併用によりセロトニンの濃度が更に高くなるおそれがある。
薬物代謝酵素(CYP2D6)を阻害する薬剤
 キニジン
 アミオダロン
 テルビナフィン等
本剤の血中濃度が上昇することがある。これらの薬剤の薬物代謝酵素(CYP2D6)阻害作用により、本剤の代謝が阻害されるため。
セロトニン作用薬
 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)等
セロトニン症候群等のセロトニン作用による症状があらわれることがある。セロトニン作用が増強するおそれがある。

セロトニン症候群の主な症状は以下のようなものです。
精神症状:興奮、不安、混乱、意識障害など。
神経筋症状:震え、筋硬直、けいれん、ミオクローヌス(筋のピクつき)など。
自律神経症状:発汗、発熱、頻脈、血圧上昇など。
重篤な場合、命に関わることもあります。

併用注意についての簡単な説明

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・MAO阻害薬はパーキンソン病に使われています。
MAOにはAとBがあり、Aがノルエピネフリンとセロトニン、Bがドパミンを分解します。
MAO-Bを阻害することでドパミンの分解を阻害してパーキンソンの症状を抑えるのに使うのですが、その選択性が低下した場合、つまりMAO-Aも阻害してしまうとセロトニンの濃度が上昇してセロトニン症候群があらわれることがあります。

・CYP2D6を阻害する薬はたくさんあります。
単純にデキストロメトルファンの代謝が遅くなるので副作用があらわれやすくなります。

・選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は抗うつ剤です。
SSRIもセロトニンの作用を強めるので注意が必要となっていますが、デキストロメトルファンの通常使う量であれば心配は要らないと思います。

薬物乱用について

ジヒドロコデインの記事でも薬物乱用について書きましたが、そのジヒドロコデインに変わって近年乱用が増加してきているのが、このデキストロメトルファンです。

デキストロメトルファンは通常使う量であれば安全な成分ですが、高用量を摂取(オーバードーズ)することで多幸感幻覚作用解離性作用を引き起こすことがあります。

特に若年層の間で薬物乱用の報告があり、一部の国では販売規制が設けられています。
アメリカでは複数の州で、未成年への販売を禁止する法律がありますね。

乱用は重篤な副作用を引き起こす可能性があり、特に呼吸抑制意識障害セロトニン症候群横紋筋融解症(筋肉の壊死により急性腎不全を起こす)などが発生するリスクがあります。
日本でも急性中毒による死亡例があります。

必ず用法・用量を守って使用してください

他の成分についてはこちらから。
成分の一覧表

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