
「ジメモルファン」についての簡単な解説です。
ジメモルファンを含む市販薬は、現在は存在しません(2026年1月時点)。
以前は『セピーゴールド(カプセル・顆粒)』や『新パブロンせき止め液』というのがあったようですが、すでに製造終了となっています。
ただ、医療用としてはかなり使われている咳止めであり、「市販薬がない」という事も情報であると思い記事を書きました。
(もちろん、市販で出てきたら書き直します)
分類・作用機序
ジメモルファンリン酸塩の化学構造式

分類
いわゆる「咳止め」ですが、
その中でも「中枢性非麻薬性鎮咳薬」に分類されます。
日本で開発された成分で、海外ではあまり使われていないようです。
日本以外だと、台湾、スペイン、イタリアあたりで使われているそう。
作用機序
脳にある咳中枢を抑制することで咳を抑えます。
シグマ-1受容体というところに働き、咳反射を調節するそうです。
咳は本来、肺や気管などの呼吸器を守るために、外から入ってきた異物(ほこりやウイルスなど)を外に追い出す生体防御反応です。
気道粘膜上のセンサーが異物を感じ取ると、脳の咳中枢に信号が送られて咳が出ますが、この信号を抑える(というか信号に対して反応しにくくする)ことで咳を鎮めるんですね。
コデインやジヒドロコデインと構造式は似ていますが、オピオイド受容体への作用はないとされているため、麻薬には分類されません。
医療用医薬品の「アストミン」のインタビューフォームには、
「ジメモルファンリン酸塩をサルに1ヵ月投与して検討した薬物依存性試験の結果、身体依存性及び精神依存性は認められず、非麻薬性であることが証明されている。」
との記載があります。
蛇足:鎮咳作用とは関係ない、ちょっと変わった作用について
全然関係ないのですが、ジメモルファンには鎮咳作用とは別に薬理学的に少し面白い報告もあります。
でもいずれも臨床応用には至っていません。
ジメモルファンはデキストロメトルファンと同じくシグマ-1受容体に作用することから、動物実験では記憶障害モデルへの影響が報告されています(Anti-amnesic effect of dimemorfan in mice)。
マウスでの実験ですが、薬によって誘発した健忘をジメモルファンが改善したと。
ただ、基礎研究にとどまっていて臨床的な有効性が確認されているわけではありませんし、そういった話も聞かないですね。
他にも抗けいれん作用とか神経系の作用は報告されていますが、大体2000年前後に集中しています。
研究はそれ以降ほとんど進んでいないようです。新しく何か出てたらすみません。
そっちの分野でも研究が進むと面白かったんですけどね。
現在よく使われている抗認知症薬の「ドネペジル」なんかはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ですが、シグマ-1受容体作動薬でもあります。
そちらの分野ですでに立場が確立された薬があるので、わざわざジメモルファンをそちらに転用することもないのでしょうね。それか、思ってたほど効果的ではなかったか。
使うとしても補助的な感じになりますし、莫大なお金をかけて臨床試験をする気にもならないのかも。
結果として、研究としては面白いのですが薬としての立場は確立されなかった、という感じ。
ちなみに、デキストロメトルファンの方はNMDA受容体拮抗作用があるため鎮痛補助剤として使われていたこともありましたが、NMDA受容体拮抗薬として有名なのは「メマンチン」があって、これも抗認知症薬です。
中枢性鎮咳薬はその名の通り中枢に作用する薬であり、他にもいろいろな可能性があったのかもしれません。
ただ、実際に薬として生き残るかどうかは効果の強さや使いどころ次第、ということなのでしょうね(あとメーカーの予算)。
効果や使用方法
効果
咳を抑える効果があります。
コデインやジヒドロコデイン、デキストロメトルファンと違い、便秘の副作用があまりないため咳止めで便秘が気になる人には使いやすいかと思います。
効果の目安ですが、医療用「アストミン」のインタビューフォームには下の表が載っています。
「咳嗽を伴う慢性呼吸器疾患患者178例に対して」のものです。

医療用の場合、成人だと1回に
・ジメモルファン:20mg
・デキストロメトルファン:30mg
使うことが多いのですが、この表を見ると有効性は大体同じくらいでしょうか。
また、こんな表も。

モルモットやネコでの試験であり「ヒトでも同じ」とは言えませんが、大体デキストロメトルファンの1.2~1.5倍というところでしょうか。
上に書いた1回量だと、効果はほぼ同等と考えて良いでしょうね。
(経口投与でコデインの2.5倍となってますが…体感ではそんな強くはないかな、と)
デキストロメトルファンは「効果はプラセボと同等」のような論文がありましたが、ジメモルファンも探してみるとありました。
「The nonnarcotic antitussive drug dimemorfan: a review」という1997年のですが、
「3つの主要な比較臨床試験および市販後調査研究において、ジメモルファンは咳のコントロールにおいてデキストロメトルファン、リン酸ベンプロペリン、またはプラセボと同等かわずかに有効であることが示された(Google翻訳)」との一文が。
でも「ジメモルファンが有害事象の発現率が低く、効果的な非麻薬性鎮咳薬であることを示しています」と絞められていて、正直少し分かりにくい結論です(まっこうから否定はできないのでしょう)。
そもそもジメモルファン(「アストミン」)の発売は1970年代でかなり古い薬です。
今の基準で見るとプラセボとの差を明確に示すことは難しいですが、これは中枢性鎮咳薬全体に共通する話ですね。
効く効かないは別として、こういった中枢性の鎮咳薬は症状があるときだけ使用するのが基本となります。
風邪のほとんどは上気道のウイルス感染で、そのウイルスを追い出すために咳が出るわけです。
なのでその咳を止めてしまうと逆に悪化して、気管支炎や肺炎になる可能性もあります。
使うとすれば感染後咳嗽(風邪の他の症状が治まった後に咳だけが続いてる)とかでしょうか。
痰が絡んだ咳には使わない方が良いです。
風邪をひいた時でも軽めの咳であれば、咳止めは使わないで様子を見た方が良いかと思います。
ただの風邪であれば数日~1週間程度で良くなるはずですし。
ただ、激しい咳の場合は体力の消耗が激しいし、咳のし過ぎで肋骨を折る人もいるし、このご時世だと周りの目も気になるでしょう。あと夜に咳が出て寝付けない、というときには有効かもしれないですね。
この辺は人それぞれのさじ加減になりますが、薬を使う意義もあるかもしれません。
というか、激しい咳が出るなら病院に行ってください。ただの風邪ではない可能性もあります。
医療用の使用例
医療用では「アストミン」という名前で有名ですね。
風邪で受診したとき、咳が出ると言えばほぼ必ず処方されてます。咳以外には使いません。
(2022年あたりに需要が爆増したため、手に入らない時期もありました。今でもちょっと不安定?)
散剤やシロップ剤もあるので小児にも使えます。
ただ、小児の場合はチペピジン(アスベリン)が圧倒的に多いでしょうか。
成人かつ妊娠していない場合、つまり多くのケースではこのジメモルファン(アストミン)が処方されています。
医師によっては「アストミンは効かないでしょ」ということでコデインを使うことも多いですけど。
妊娠している場合はデキストロメトルファンが使われることが多いですね。
それはなぜか?
ジメモルファンはデキストロメトルファンを基に日本で開発された薬です。
つまり、デキストロメトルファンより後に効果や安全性を重視して設計された成分なわけで、安全性に関してデキストロメトルファンに劣るということはないかと思います。
ただ、データ量に大きな差があります。
デキストロメトルファンは1950年代にスイスで開発され、それ以降世界中で使われているので実績が豊富なんですね。
この2つで妊娠中の安全性に大きな差があるとは考えにくいのですが、妊娠中の使用に関するデータ量に大きな差があるため、現場ではより情報が蓄積されているデキストロメトルファンが選ばれやすくなっている、という感じです。
「たぶん安全だから」で使うわけにはいかないですからね。
用法・用量
ジメモルファンを含む市販薬は現在は存在しません(2026年1月時点)。
以前は
『セピーゴールド(カプセル・顆粒)』
『新パブロンせき止め液』
などがあったようですが、現在は製造終了となっています。
「かぜ薬の製造販売承認基準」では、1日最大30mg
「鎮咳去痰薬の製造販売承認基準」では、1回15mgまで、1日最大60mg
となっています。
医療用では通常は15歳以上に
1回10~20mg・1日3回
となっています。
小児の場合は体重によってですね。
ジメモルファンがなぜ市販では使われてないのか?勝手に考察。
・医療用ではたくさん使われていて
・値段も高いわけじゃない(「アストミン」の薬価は1錠5.7円)
・安全性も高い
・依存性もない(コデイン類やデキストロメトルファンは乱用が問題になってます)
にもかかわらず、なぜ市販で使われてないのか?
ちゃんと風邪薬や咳止めの製造販売承認基準にも載ってるんですけどね。実際に過去には販売されてましたし。
過去に販売されていた『新パブロンせき止め液』の方は情報が見つからなかったのですが、『セピーゴールド』の方は厚労省のサイトに、
「当該製品は顆粒剤で、1包中にジメモルファンリン酸塩を10mg含んでおりますが、劇薬に関する表示に不備があることが判明いたしましたため、使用期間の残存する全ての当該製品を回収いたします。」
との記載がありました。
平成25年(2013年)3月のことのようです。このときに全ての製品を自主回収して、これ以降はジメモルファンを含む市販薬は販売されてないっぽいです。
あくまで「表示上の不備」ってことのようで、「表示以外の品質には問題がありませんので~」と書いてるので品質とかの問題ではないみたいですね。
『セピーゴールド』には「セミアルカリプロティナーゼ」が、『新パブロンせき止め液』には「リゾチーム塩酸塩」が含まれていました。この2つは「蛋白分解酵素」です。
この蛋白分解酵素というのは抗炎症作用を期待して、以前はよく風邪のときの喉の痛みに処方されていましたね。
(「ダーゼン」とか「エンピナース」とか。同世代の薬剤師なら分かってくれると思うけど)
これら「蛋白分解酵素」は「リスクが有益性を上回る」ということで医療用のものは販売が中止され、今では全滅しました。
この2つの製品が販売中止になったのはこれらの成分のせいもあるかも?
んで、「なぜジメモルファンを含む市販薬がないのか?」のきつね個人の推測ですが、
1.効果が中途半端
市販薬に含まれる咳止めとして代表的なものは、今までも名前を挙げていた
・ジヒドロコデイン
・デキストロメトルファン
があります。ノスカピンなんてのもあるけど。
一番使われているのはジヒドロコデインですね。これは麻薬性の鎮咳薬です。
副作用も出やすいし依存性もあるけど効果も高め。
ただし12歳未満には禁忌。
デキストロメトルファンは効果は強くないのですが、安全性が高め。妊娠中や授乳中の場合はまずはこれが選ばれます。先に書いた通りデータが豊富。効く効かないは別として。
小児も使える製品にはこれが配合されていると思います。
市販薬は基本的に「使ってみて効果がなかったものは次は買われない」と思うので、効果が高くないと売れないですね。
圧倒的にジヒドロコデインが使われているのはこれが理由でしょう。
ジヒドロコデインではない鎮咳薬を配合するとなると、安全性データが豊富なデキストロメトルファンが選ばれるかな?と。
効果が同等だとするならばデータが豊富な方を選ぶでしょう。世界的にマイナーなジメモルファンを選ぶ理由は無いかと思います。
ただ、根拠としてはちょっと弱いかな?ノスカピンが配合されている咳止めもあるし。
2.耐糖能異常
他の中枢性鎮咳薬にはない注意点として、「耐糖能に軽度の変化を来たすことがある」ということで、糖尿病またはその疑いのある人は注意、ということになっています。糖尿が悪化する可能性があるということですね。
ただこれは超高用量をラットに投与した場合の話であり、「健康成人男子6例に対しジメモルファンリン酸塩20mgを1日3回5日間経口投与し、投与前後に耐糖試験を行った結果、各被験者とも投与前後で耐糖能に変化は認められなかった」との記載もあります。
成人男性6例というのは数が少なすぎてデータとしては貧弱ですが、デキストロメトルファンでも同じ実験で同じような結果が出た事を考えると、ジメモルファンに特に注意が必要、というわけでもないでしょう。
デキストロメトルファンの方には耐糖能異常についての注意書きはありません。
「こういう事があったから一応注意してね」くらいの感じです。
ということで、これも根拠としては弱いかな、と。
3.調達コスト
おそらくですが、デキストロメトルファンよりもジメモルファンの方が調達コストが高いのではないでしょうか?
これは完全に憶測です。
デキストロメトルファンは世界中で使われていますが、その分大量に生産されているでしょう。
供給量が十分にあり、安定して仕入れることができると思います。
対してジメモルファンは日本を含む限られた市場でしか使われていません。
デキストロメトルファンと比べると生産量は桁違いに少ないでしょう。供給が不安定になりがち。
どうしてもジメモルファンの方が仕入れコストが高くなるはずです。
価格に転嫁できればいいのですが、デキストロメトルファンと効果が同等なのであれば、わざわざ高い方を買う人もいないでしょう。
「コスパが悪い」ということですね。
4.依存性がない
ジヒドロコデインもデキストロメトルファンも依存性があり、その乱用が社会問題にもなっています。
メーカーとしてはもちろん「売れる製品」を作らなくてはいけません。商売なので。
リピーターは多ければ多いほど良いわけですね。それが適切か不適切かは別の話です。
「売れればいいと思っている」とまでは言いませんが、わざわざ売れる商品を止めることもないでしょう。
もし依存性がない(とされる)ジメモルファンに全製品を切り替えたら、「不適切なリピーター」という巨大な市場を一気に失うことになります。これは企業経営としては大きなリスクでしょうし。
多くの風邪薬や咳止めに「濫用等のおそれのある医薬品」であるメチルエフェドリンが入っていたり、解熱鎮痛剤に習慣性のあるアリルイソプロピルアセチル尿素やブロモバレリル尿素などが入っているのがいまだに多いのを考えると、まったくの見当違いというわけでもないかな、と。
これは「メーカーが意図的に依存性を利用している」という意味ではなく、市販薬市場の構造上「効果を実感しやすい成分」が結果的に選ばれ続けてきた、ということだと思います。
あとは国の規制の問題ですね。最近はまた厚労省が規制の範囲を広げる動きが見られます。
もし今後ジヒドロコデインやデキストロメトルファンの規制が厳しくなった場合、ジメモルファンが脚光を浴びることになるかもしれないですね。
こんな感じで、「コスト」「依存性」の点から、ジメモルファンを含む市販薬はないのかな~?と思っています。あくまで個人的に。
全然違うかもしれないけど。
使用上の注意点
副作用
重大な副作用は、添付文書上では特に無いとされています。
起きやすい副作用は、
- 食欲不振(3.99%)
- 口渇(2.56%)
- 眠気(1.18%)
- 悪心・嘔吐(1.13%)
といった感じです。()内の数字はインタビューフォームによるものです。
消化器系が多いですね。
ほかの中枢性鎮咳薬と比べて便秘は少なめ(0.07%)。
また、デキストロメトルファンもジヒドロコデインも添付文書には
「眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」
の記載があるのですが、ジメモルファンにはこの記載はありません。
ただ、眠気についてはデキストロメトルファンは0.33%となってたので、ジメモルファンの方が眠気は出やすいかも?
きつねも患者さんにアストミンを渡すときには「最初は眠気に注意してください」とお話ししています。
その他の副作用を含めたものはこちら。
| 0.1~5%未満 | 0.1%未満 | 頻度不明 | |
|---|---|---|---|
| 過敏症 | 発疹 | ||
| 精神神経系 | めまい、眠気、頭痛・頭重 | 脱力感、倦怠感 | |
| 消化器 | 口渇、食欲不振、悪心、 嘔吐、下痢 | ||
| 循環器 | 頻脈、動悸、顔面潮紅 |
これらとは別に「糖尿病又はその疑いのある患者」さんには注意となっています。
影響が出る可能性もゼロではないので一応注意を。
ただ、上にも書いた通り「健康成人男子6例に対しジメモルファンリン酸塩20mgを1日3回5日間経口投与」した場合では異常はなかったとのこと。6例は少ないけど。
実験では、ラットに5週間毒性試験で「200mg/kg経口投与で耐糖能の低下」、「400mg/kg経口投与で膵臓ランゲルハンス島β細胞に液胞が出現」となっています。マウス、モルモット、イヌではこうした変化はなかったそうです。
200mg/kgは50kgの場合だと10,000mgですね。
ジメモルファンの通常用量は1日30~60mgです。
ちなみに、デキストロメトルファンでも200mg/kg経口投与で膵臓ランゲルハンス島β細胞に液胞が出現したそうですが、「メジコン」の添付文書にもインタビューフォームにも何も記載はありません。
そもそもこういう中枢性鎮咳薬は頓用かつ短期間だけ使うものなので、あまり心配しなくても良いかと思います。
相互作用
食べ物や他の薬との飲み合わせで問題になるものはありません。
使いやすいですね。
ただ、他の眠気の出る薬と一緒に飲むとやっぱり眠くなりやすいと思うので注意してください。
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