「ヘスペリジン(ビタミンP)」についての簡単な解説です。
これについては自分も全然知らないので、ほとんどネットで調べたものを載せています。すみません。
ヘスペリジン(ビタミンP)を含む市販薬の製品一覧
解説記事を書いたことのある製品を載せています。
風邪薬(総合感冒薬)
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製品名をクリック・タップすると、その製品の解説記事にいきます。
製品名 | 1日あたりの成分量 |
---|---|
エスタック総合感冒 | 45mg |
ストナプラスジェルEX | 90mg |
ベンザブロックIP | 90mg |
ベンザブロックIP プレミアム | 90mg |
ベンザブロックS | 90mg |
ベンザブロックS プレミアム | 90mg |
ルルアタックNX プレミアム | 90mg |
市販の風邪薬に配合できる最大用量が1日90mgになります。
(「かぜ薬の製造販売承認基準について」より)
分類・働き
ヘスペリジンの化学構造式
分類
「ビタミン様物質」の一つとされています。
「ビタミンP」とも言われますが、正確には「ビタミン」ではありません。
ややこしい。
ビタミンとは、「生物が生命維持に必要だけど体内で十分作れない有機化合物」のことです(Wikipediaより)。
でも、ヘスペリジンには欠乏症がないので「生命維持に必須ではない」ということですね。
なのでビタミンではないと。
Wikipediaによると、
温州みかんやはっさく、ダイダイの皮に含まれるフラボノイド(いわゆるポリフェノール)の一種だそうです。
ポリフェノールといえば、チョコやワインに含まれる健康成分として知られてますね。
また、漢方で使われる「陳皮」の主成分でもあるそうです。
昔から健康に良い成分として知られていたのかもしれません。
働き
いろいろな作用が報告されているそうで、ここに羅列します。
- コレステロールや血圧の低下
- 骨密度の低下抑制
- 敗血症に対する保護作用
- 抗不安作用
- 抗酸化作用
- 抗炎症作用
- 抗アレルギー作用
- 毛細血管強化
- 血管透過性抑制
- 発がん抑制
- 免疫力アップ
血管強化や抗酸化作用など、ビタミンCと似ている部分が多いですが、
ヘスペリジン特有の働きとして「血管透過性の抑制」や「敗血症に対する保護作用」などがありますね。
ヘスペリジンとビタミンCを一緒に摂取すると、抗酸化作用が相乗的に高まるとされています。
これは、両者が持つ抗酸化作用が補完し合うためだと考えられています。
具体的には、
- ビタミンCの抗酸化作用:
- 活性酸素を中和し、細胞を酸化ストレスから保護します。
- ビタミンCは水溶性なので、体液中で働きます。
- ヘスペリジンの抗酸化作用:
- フラボノイドとして脂溶性部分でも働ける特性があります。
- 毛細血管の保護や血管透過性の抑制など、血管の健康に特化した効果が期待できます。
このように、水溶性(ビタミンC)と脂溶性(ヘスペリジン)の抗酸化作用が組み合わさることで、広い範囲で酸化ストレスから体を守れるってわけですね。
ここから少し脱線するので、折り畳みにしておきます。
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ただ、ヘスペリジンは難溶性であるため吸収が悪いみたいです。
その吸収性を良くした「糖転移ヘスペリジン」というのがサプリメントでありますね。
この糖転移ヘスペリジンは水溶性を高める事で吸収を良くしてるようですが、そうなると脂溶性である事のメリット(細胞膜や脂質環境での作用)が薄れる可能性があるんじゃないかな?と個人的には思います。
どうなんでしょうね?
薬でも血中濃度と効果の持続時間が一致しないものがあります。
これは薬の性質や作用機序、体内での分布などが関係しています。
具体例を挙げると
- 組織への蓄積:
- 薬が特定の組織や細胞に蓄積しその部位で効果を発揮する場合、血中濃度が下がっても薬の効果が持続することがあります。
- 例: 一部の抗生物質(アジスロマイシンなど)は組織内に長く留まるため、血中濃度が低くなっても効果が続きます。
- 不可逆的作用:
- 薬が標的分子と強く結合して効果を発揮する場合、一度作用が開始されると薬が分解されても効果が持続することがあります。
- 例: アスピリンは血小板の酵素を不可逆的に阻害するため、血中濃度が低下しても効果が持続します。
- 代謝産物の活性:
- 薬自体はすぐに代謝されて血中濃度が下がりますが、代謝産物が活性を持つ場合は効果が持続することがあります。
- 例: コデインは代謝されてモルヒネになることで鎮痛作用を発揮します。
- 薬のリザーバー効果:
- 薬が脂肪組織や骨などに一時的に蓄積し、徐々に血中に戻ることで長時間効果を持つことがあります。
- 例: 一部のステロイドや脂溶性ビタミン。
もし脂溶性のヘスペリジンが細胞膜や脂質環境に作用する性質を持つなら、血中濃度とその作用が一致しない可能性があります。
一方、糖転移ヘスペリジンのように水溶性を高めると、血中濃度の変動がそのまま効果の強さや持続に反映されるかもしれません。
どちらが良いかは…気分?
効果や使用方法
効果
風邪薬に配合されている理由としては、抗炎症作用・抗アレルギー作用もありますが、
- 毛細血管の保護作用
- 毛細血管を強化して血管透過性を抑える効果があるようなので、風邪のときの鼻づまりや喉の腫れを緩和する目的が考えられます。
- 抗酸化作用
- 風邪の時は体内で活性酸素が増えやすく、炎症が悪化することがあります。
ヘスペリジンの抗酸化作用が、炎症を抑える補助的な効果がある可能性があります。
- 風邪の時は体内で活性酸素が増えやすく、炎症が悪化することがあります。
- 免疫調整作用
- ヘスペリジンには免疫力を高める可能性があると報告されています。
風邪の回復を助けたり、症状の悪化を抑える可能性があるかも。
- ヘスペリジンには免疫力を高める可能性があると報告されています。
- 全身の血流改善
- 血流を改善することで体が冷えにくくなり、症状の緩和や体力の回復をサポートする効果があるかも。
などが考えられます。
これらの理由から風邪薬に配合されることが多いのかもしれませんね。
風邪薬に入っている解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬はあくまで症状の緩和が目的です。
ヘスペリジンはどちらかというと漢方チックな感じでしょうか。体そのものを風邪に対して強くするような。
ただ、あくまでも補助的な役割であることは変わりありませんね。
医療用の使用例
医療用では「ヘスペリジン」単剤のものは存在しません。
ただ、「陳皮」の主成分ということなので漢方に入っている事になりますね。
ちなみに、陳皮は温州みかんのような柑橘類の成熟した果皮を原料とする生薬の一種です。
陳皮が入っている漢方薬は、きつねが確認した限りでは以下のものになります。
(思ってたより多かったので折り畳みにしておきます)
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- 胃苓湯(イレイトウ)
- 芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)
- 啓脾湯(ケイヒトウ)
- 香蘇散(コウソサン)
- 五積散(ゴシャクサン)
- 滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
- 滋陰至宝湯(ジインシホウトウ)
- 参蘇飲(ジンソイン)
- 神秘湯(シンピトウ)
- 清暑益気湯(セイショエッキトウ)
- 清肺湯(セイハイトウ)
- 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
- 竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)
- 釣藤散(チョウトウサン)
- 通導散(ツウドウサン)
- 二朮湯(ニジュツトウ)
- 二陳湯(ニチントウ)
- 人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
- 半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
- 茯苓飲(ブクリョウイン)
- 茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)
- 平胃散(ヘイイサン)
- 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
- 抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)
- 六君子湯(リックンシトウ)
あたりでしょうか。結構ありますね。
胃腸系や体力低下、風邪や咳・気管支炎、頭痛、高血圧など、漢方ごとに効能は異なりますが、「働き」の項目に書いてある作用は陳皮を通じて昔から知られていたのかもしれませんね。
ただ、陳皮にはヘスペリジン以外の成分も含まれているので、これら全てがヘスペリジンの作用とは言い切れません。
用法・用量
市販薬の風邪薬の場合は
1回30mg・1日3回(1日90mg)
のものが多いでしょうか。
医療用のものはないので比較はできません。
漢方薬に含まれる陳皮の量は様々ですね。
ヘスペリジンの摂取量の目安ですが、「1日75~150mg」と書いてるものもあれば「1日250~500mg」と書いてるものもありますね。
1日90mgというのは少なめではあるみたいですが、もともと補助的なものとして配合されてるのであまり気にしなくて良いかもですね。
使用上の注意点
副作用
下痢、腹痛、胃炎、頭痛などが報告されていますが、因果関係はよく分かりません。
これらの症状は日常的に起こり得るため、必ずしもヘスペリジンによるものとは言い切れませんね。
現在のところ、ヘスペリジンが重大な副作用を引き起こす可能性は低いとされています。
脂溶性のビタミン(ビタミンA、D、E、K)の場合は体細胞や肝臓に蓄積しやすく、過剰摂取による毒性が問題になることがあります。
ヘスペリジンは脂溶性なのですが、
- 代謝と排泄
- ヘスペリジンは摂取後、速やかに代謝されて「ヘスペレチン」という形に変換され、最終的に尿や胆汁を通じて排泄されます。
- 吸収性が低い
- ヘスペリジンはそのままだと吸収率が低いため、摂取量の多くが未吸収のまま体外に排泄される可能性もあります。
これらのことにより、脂溶性ではあるものの摂り過ぎた場合に脂溶性ビタミンのように体内に蓄積されるリスクは低いと考えられます。
内閣府の食品安全委員会の報告では、
「最大3 g/日のGH/MGHを補給投与した後の血液学的パラメーターや臨床化学的パラメーターに、臨床的に関連性のある変化が報告されていない(GH:グルコシルヘスペリジン、MGH:モノグルコシルヘスペリジン)」
との記載があります。
つまり、1日3g(3,000mg)摂っても特に問題はなかったよ、という事ですね。
通常の摂取量であれば問題ないと思います。
サプリメントなどでの過剰摂取には一応注意してください。
相互作用
気にしなくて良いと思いますが、可能性のあるものを書いておきます。
(長くなったので興味がなければ読まない方が良いです)
「国際標準機能性食品便覧ナチュラルメディシン・データベース 健康食品・サプリメント[成分]のすべて」によると、
・セリプロロール(血圧・狭心症の薬)
「動物実験において、ヘスペリジンとの併用において、セリプロロールのAUCが75%低下した」との報告があります。
つまり、セリプロロールの効果が弱くなり血圧上昇や頻脈などが出る可能性があります。
・ジルチアゼム(血圧・狭心症の薬)
「動物試験において、ヘスペリジンがジルチアゼムのバイオアベイラビリティを増加させ、AUCを65.3%増加させたことが示唆された」とのことです。
ジルチアゼムの効果が高まり過度な血圧低下や徐脈などが起こる可能性があります。
・ベラパミル(頻脈性不整脈・狭心症の薬)
「動物実験において、ヘスペリジンがベラパミルのバイオアベイラビリティを増加させ、AUCを96.8%増加させる可能性が示唆された」とのことです。
ベラパミルの効果が高まり過度な血圧低下や徐脈などが起こる可能性があります。
AUCとは「血中濃度時間曲線下面積」です。
例えば、これはジルチアゼムの薬物動態のグラフですが、
赤い斜線の部分がAUCとなります。
血中濃度が高くなったり、代謝・排泄が遅くなり血中に長く留まるようになるとAUCは増加します。
逆に、吸収が悪かったり、代謝・排泄が早くなるとAUCは低下します。
後発品(ジェネリック)が認可されるには、先発品とAUCが同等である必要があります。
いくら成分が同じでもAUCがかけ離れていると同じ薬とは言えませんしね。
ジルチアゼムやベラパミルのAUCが増加した、という事を考えると、ヘスペリジンには代謝酵素やP糖タンパクを阻害する作用があるのかもしれません。
(P糖タンパクは化合物などを細胞外に排泄する働きがあります)
ただ、「多くは動物試験やin vitro(試験管内)試験の結果から考えられる理論的推測に基づく相互作用であるため、エビデンスとしては低い」とされています。
まだまだ研究途中って感じですね。
ちなみに、ヘスペリジンは柑橘類の果皮に入っていますが、柑橘類には薬物代謝酵素のCYP3A4を阻害するものがあります。
有名なものではグレープフルーツジュースですね。
医師から薬を処方してもらった時に、「グレープフルーツジュースは飲まないで」と言われた人もいるのではないでしょうか。
グレープフルーツジュース以外にも、
- 夏みかん
- ダイダイ
- はっさく
- ブンタン
- スウィーティー
などがCYP3A4を阻害することが知られています。
CYP3A4で代謝される薬は結構ありまして、柑橘類は注意した方が良いでしょう。
ちなみにですが、「薬と一緒に飲まないで」ではなくて「薬を飲んでる期間はグレープフルーツジュース(など)を飲まないで」です。
CYP3A4阻害の影響は消化管において数日続くとされています。
「薬は朝に飲むから、夜にグレープフルーツジュースを飲めばいいや」とはいきません。
ただ、正直そこまで神経質になることもないかと思います。
たまに飲むくらいであれば問題になる事は少ないですね。
次に、セリプロロールのAUCが低下した理由ですが、これもおそらくはグレープフルーツジュースと同じかと思います。
といっても、上に書いた作用とは違います。
消化管には薬を細胞内に取り込むトランスポーターというものがあります。
グレープフルーツジュースは、このトランスポーターの働きを阻害する事が分かっています。
つまり、薬の吸収を阻害します。
ヘスペリジンにも同じような作用があるのかもしれませんね。
セリプロロールはこのトランスポーターから取り込まれ、かつCYP3A4で代謝を受けません。
なのでヘスペリジンと併用した時に、ジルチアゼムやベラパミルとは逆の動きをしたのでしょう。
こちらの作用は4時間程度とされているので、「薬は朝に飲むから、夜にグレープフルーツジュースを飲めばいいや」でOKです。
薬を服用中の方は一応柑橘類には注意した方が良いですね。
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