市販のPPI(胃薬)3製品の比較と注意点【薬剤師が解説】

胃酸を強力に抑えるという事で胃潰瘍や逆流性食道炎の治療に欠かせなくなったPPIですが、市販薬が出てきましたね。(これを書いてるのは2025年9月です)

今のところは要指導医薬品ということで買うにはちょっと面倒ですが、受診する時間がない人にとって店頭で買えるのはメリットですね。
(要指導医薬品:薬剤師が対面で情報提供と指導を行う必要がある医薬品。ネットでもダメ)

現在は3種類が販売されています。その特徴や違い、注意点などを簡単に解説します。

各成分の詳しい説明はこちら
「オメプラゾール」の解説
「ラベプラゾール」の解説
「ランソプラゾール」の解説

目次

PPIのメカニズムとか

作用

Proton Pump Inhibitor(プロトンポンプインヒビター:プロトンポンプ阻害薬)」の頭文字をとって「PPI」です。

胃の壁細胞にあるプロトンポンプの働きを抑えることで胃酸の分泌を減らします。

胃酸が分泌される経路は主に3つあるのですが、PPIは最終段階の働きを阻害することで胃酸の分泌を強力に抑えます。

※胃酸の分泌のメカニズムとかはこちらの記事に書いてます。

H₂ブロッカーとの違い

同じく胃酸の分泌を減らす薬としては「H₂ブロッカー」というのがあります。
西村まさ彦さんで有名な『ガスター10』とかがそうですね(「雅彦」から「まさ彦」に変わってた)。

「PPI」と「H₂ブロッカー」の違いとしては、

PPIH₂ブロッカー
胃酸を抑える強さ強いPPIよりは弱い
効き目の早さ数日~1週間かかる即効性
効き目の長さ長い
(基本は1日1回)
短い
(基本は1日2回)
抑えるのが
得意な胃酸
食後の胃酸夜間の胃酸
適した症状継続的な胸やけ・もたれ急な胃痛・胸やけ
耐性ない(たぶん)ある
PPIH₂ブロッカー
胃酸を抑える強さ強いPPIよりは弱い
効き目の早さ数日~1週間かかる即効性
効き目の長さ長い
(基本は1日1回)
短い
(基本は1日2回)
抑えるのが
得意な胃酸
食後の胃酸夜間の胃酸
適した症状継続的な胸やけ・もたれ急な胃痛・胸やけ
耐性ない(たぶん)ある

ザックリだとこんなところでしょうか。細かい事だとたくさんありますけど。

H₂ブロッカーは胃酸分泌の3つの経路のうち1つを抑えますが、胃酸が減ると他の経路が活発になるため効きが悪くなってきます。
PPIは最終段階を止めるので強力かつ耐性が生じにくいってわけですね。

ただ、PPIの効果が出るには数日はかかります。「今この瞬間胃が痛いの!」というときはH₂ブロッカーの方が速く効くので良いでしょうね。

PPIは主に食後の胃酸分泌を強力に抑えます。夜間の胃酸分泌はH₂ブロッカーの方が強く抑えるので、状況によって使い分けると良いでしょう。

といっても、PPIでも夜間の胃酸分泌はちゃんと抑えられるので、夜間や朝方に胃が痛くなる、胸やけするという人は朝ではなくて寝る前に服用してみるのも良いでしょう。

市販のPPI 3種類の比較とか解説

市販のPPIは現在3種類出ています。似たようなものですが、一応比較していこうと思います。

基本情報

各製品の基本情報はこちら。

製品名(成分名)成分量(1錠)包装定価(税込み)1錠あたり製造販売元
オメプラールS
(オメプラゾール)
10mg14錠2,178円155.6円佐藤製薬
タケプロンS
(ランソプラゾール)
15mg14錠2,508円179.1円アリナミン製薬
(元・武田子会社)
パリエットS
(ラベプラゾール)
10mg6錠1,628円271.3円エーザイ
スクロールできます
製品名
(成分名)
成分量
(1錠)
包装定価
(税込み)
1錠あたり製造販売元
オメプラールS
(オメプラゾール)
10mg14錠2,178円155.6円佐藤製薬
タケプロンS
(ランソプラゾール)
15mg14錠2,508円179.1円アリナミン製薬
(元・武田子会社)
パリエットS
(ラベプラゾール)
10mg6錠1,628円271.3円エーザイ

すべて医療用医薬品の商品名に「S」を付けただけですね。

3製品とも効能は「胃痛・胸やけ・もたれ」で同じです。

成分量はどれも医療用で通常使われる量と同じですね。医療用だとこの倍の量を使うこともあります。
(※医療用の場合、胃潰瘍や逆流性食道炎にはオメプラゾール:20mg、ランソプラゾール:30mgが基本になります。ラベプラゾールは基本は10mgですが、症状によっては20mg)

すべて「15歳以上」「1日1回・1錠」の服用です。朝でも夜でも食後でも空腹時でも構わないのですが、毎日同じくらいの時間に服用してください。

※PPIは作用上は「食前」の方が適していますし、「食前の服用が望ましい」という論文も複数あります。
ただ、市販薬ではそこまで気にしなくても構いません(食前の方が早く効くのは確か)。
医療用では「食後」で処方されることが多いですが、これは飲み忘れを防ぐ目的もあります。
処方薬の場合は医師の指示に従ってください。

また、PPIは胃で溶けると効果がなくなります。噛まずに服用してください。
※『タケプロンS』は口腔内崩壊錠で、直径約0.3mmの細粒を固めて錠剤にしています。口の中で崩壊はしますが、溶けているわけではなくてバラバラになっているだけです。
この細粒1つ1つが腸溶性となってるので多少は噛んでも大丈夫ですが、すり潰さないでください。

服用期間は「2週間まで」となっています。ただ、5日程度飲んでても良くならないのであれば結構な症状なので受診した方が良いと思います。

3製品 それぞれの特徴

それぞれの特徴としては以下のようになります。

  • オメプラゾール(オメプラールS)
    • 効き目に個人差があるかも
    • 相互作用が多い
  • ランソプラゾール(タケプロンS)
    • 『タケプロンS』は口腔内崩壊錠。イチゴ味
    • 膠原線維性大腸炎の割合多い
    • 効き目に個人差あるかも
    • 相互作用はまあまあ多い
  • ラベプラゾール(パリエットS)
    • 相互作用が少なめ(ないわけじゃない)
    • リバウンドが少なめ

『オメプラールS』と『パリエットS』は普通の錠剤です。2つとも小さい錠剤ですね。
『タケプロンS』は口腔内崩壊錠といって、舐めていたら溶ける薬です。その分ちょっと大きめ。市販のは分かりませんが、医療用の「タケプロンOD錠15」と同じだとすれば美味しいと思います。
(CMでは「水なしでも飲める」と言ってますが、口の粘膜から吸収されるわけではないので、水や唾液で飲み込んでください)

効き目の違いについて

有効性についてはどれもそれほど違いはないのですが、医療用ではなんとなくランソプラゾール(タケプロン)やラベプラゾール(パリエット)がよく使われてる印象です。
一応、ラベプラゾールが一番強力とされていますね。

医療用「パリエット」のインタビューフォーム(情報提供書)には逆流性食道炎の再発予防効果の試験のところに、
ラベプラゾールナトリウム10mg投与群およびオメプラゾール20mg投与群は同等の再発予防効果を示した」
との記載があります(市販のは両方とも1日1回・10mg)。
海外のデータのようですが、参考にはなるでしょうね。

「オメプラゾール」と「ランソプラゾール」のところに「効き目に個人差があるかも」と書きましたが、これは薬を分解する酵素のせいです。

この2つは「CYP2C19」という酵素によって代謝(他の物質に変換)されるのですが、この「CYP2C19」の活性に個人差があるんですね。
活性が高いと分解されやすい(効きが弱くなる)、活性が低いと分解されにくい(効きが強くなる)ということです。

特に「オメプラゾール」はその影響が大きいです。効いてるなら良いのですが、なんか効きが悪いな~と思ったら「ラベプラゾール(パリエット)」を試してみると良いかもしれません(ラベプラゾールは比較的影響が少なめ)。
というか、受診した方が良いかも。単純に潰瘍とかできてるかもしれないので。
(日本人の場合は、どちらかというと効き目が強く出る人がいます)

また、その酵素のせいで「オメプラゾール」や「ランソプラゾール」は他の薬との飲み合わせで注意するものが多めです。
相互作用が一番少なく使いやすいのは「ラベプラゾール」ですね。

3製品とも効能は同じです。相互作用の少なさ・剤形の好み・価格など、優先したいポイントで選んでみてください。
・相互作用の少なさ→『パリエットS』
・飲みやすさ→『タケプロンS』(OD錠なので)
・価格→『オメプラールS』
みたいな感じ。

注意点

副作用

PPIは安全性が高い薬ですが、副作用がまったくないわけではありません。

出やすいものとしては、
・下痢、便秘
・肝機能障害
でしょうか。

まれに重い皮膚症状が出ることもあります。広範囲の発疹・発赤、口の中に水疱ができるなどあればすぐに受診を。

もし症状が続く・強い異常が出るときは使用を中止して医師に相談してください。

ちょっとだけ詳しく。

実際に起こりうるものと、可能性があるかどうか議論されているものを書いておきます。

便秘・下痢

便秘も下痢も両方あるのですが、どちらかというと下痢が多い印象です。胃酸を抑えるので消化不良かも?

膠原線維性大腸炎
「コラーゲン性大腸炎」ともいわれます。PPIをしばらく飲んでて水様性の下痢が続くようになったらこれを疑った方が良いかもしれません。

で、これが「ランソプラゾール」で特に多く見られるということです。

薬を止めれば回復するはずなので、下痢しだしたら一旦薬は止めた方が良いでしょう。下痢が続くようなら受診してください。そもそも、市販薬を使う場合は短期間の方が良いでしょうね。

肝機能障害

障害、までいかなくても肝機能が悪化することがあります。

3成分とも、臨床試験の段階では肝機能の数値(AST、ALTなど)の上昇はそれなりに多め。

肝障害の人だと血中濃度が通常の倍くらいになるというデータもあったので注意してください。

皮膚症状

多いわけではないですが稀に。これはどんな薬でもありますね。

ただ、PPIはすべて「皮膚粘膜眼症候群」と「中毒性表皮壊死融解症」についての注意書きがあります。
広範囲の発疹・発赤、口の中に水疱ができるなどあればすぐに受診を。

骨折

海外での研究では、高用量および長期間(1年以上)の治療を受けた人で骨折のリスクが増加した、ということです。

ただ、これもよく分かりません。

「骨折リスクは増大しない」「PPIはカルシウムの吸収には影響しない」という論文もあります。
(“Proton Pump Inhibitors and Risk of Bone Fractures”より)

また、「喫煙歴のある女性ではPPI使用と骨折リスクの関連が見られたが、喫煙歴のない女性では関連が見られなかった」という報告もあります。
(”Use of proton pump inhibitors and risk of hip fracture in relation to dietary and lifestyle factors: a prospective cohort study”より)

今のところ明確なエビデンスはない状況ですね。
「PPIを使うような症状がある人は、もともと骨折しやすい体質や生活習慣がある」といったところでしょうか。

ただ、リスクが増加したという報告があった以上、なにかしら関係がある可能性もあります。
市販薬の場合は短期間の使用にとどめておくのが無難でしょうね。

胃がん・大腸がん

ここもいろいろと言われていますが、いまいちハッキリしません。

香港での研究では、ピロリ菌除菌後にPPIを長期間服用した患者は、H₂ブロッカーを服用した患者と比べて、胃がんリスクが2倍以上に増加した、との報告があります。
(”Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study”より)

東大でも同じような研究がありましたね。やっぱりH₂ブロッカーに比べて胃がんリスクは増大すると。

ピロリ菌に感染していない人だとどうなのか?というデータを探したのですが見つかりませんでした。

ピロリ菌が胃がんのリスク要因の第一位であることは間違いないかと思います。つまり、ピロリに感染した時点で胃がんのリスクは高まります。ピロリ除菌後もそのダメージは残っていて、そこがガン化するということもあるでしょう。

PPIやH₂ブロッカーを使うと胃内のpHが上がりますが、フィードバックによりガストリンの分泌は高まります。
(胃のpHが上昇すると胃酸を増やそうとしてガストリンが増える)

このガストリンが胃がんの発生リスクを高めるのかもしれません。わかりませんけど。

H₂ブロッカーの方が胃がんのリスクが低いというのは、PPIよりも胃酸を抑える作用が弱く、ガストリンの濃度がそれほど上昇しない、という事もあるかと思います。

ただ、高ガストリン血症だとカルチノイド(がんもどき。良性の腫瘍)が発生する可能性があるのですが、PPIの長期投与ではカルチノイドの発生は認められなかったという話もあります。

今のところはハッキリしたことは分かりませんが、自分の判断で長期に使用するのはやめておいた方が良いでしょうね。

相互作用(飲み合わせ)

併用禁忌

リルピビリン塩酸塩(商品名:「エジュラント」「オデフシィ」「ジャルカ」)」という抗HIV薬を服用中の方はPPIを飲まないでください(胃のpHが上がるとリルピビリンが吸収されにくくなる)。
(『タケプロンS』のみ添付文書に「アタザナビル硫酸塩」も書いてますが、これはすでに使われていません)

上の薬を服用中の方は、胃の調子が悪いなら主治医に相談してみてください。

併用注意

てんかんの薬、抗血栓薬、リウマチの薬、強心剤などいくつかあります。これらの薬を飲んでる方は医師や薬剤師に相談してみてください。
(それぞれの解説記事にちょっと詳しく書いています)

あと、市販の便秘薬で「酸化マグネシウム」が入ったものがありますが、これは胃酸を抑えると効果が落ちることがあります。
1日1回飲んでいる方は、酸化マグネシウムを飲んでから1時間程度は空けてPPIを飲むと良いでしょうね。

妊娠中・授乳中

妊娠中も授乳中も気にしなくて大丈夫です。

妊娠中

医療用の添付文書では、3成分とも「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」との記載がありますが、大規模な研究では「PPI服用によるリスク増加はない」という結論が出ています。
(”Use of Proton-Pump Inhibitors in Early Pregnancy and the Risk of Birth Defects”より)

Briggs基準というものでも、すべて「胎児への明らかな危険性は示されていない」となっています。

授乳中

3成分とも乳汁中への移行はありますが、PPIは小児に使うこともあります。

3製品とも添付文書は「授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けてください」の記載がありますが、移行したところで特に問題ありません。

ただ、いずれの場合も長期連用は避けて、症状が続くときは医師に相談してください。
妊娠中も授乳中も、市販薬での対応は基本的にはお勧めしません。

服用期間

3製品とも
「他のプロトンポンプ阻害薬の使用期間も合わせて2週間を超えて続けて服用しないでください。(重大な消化器疾患を見過ごすおそれがありますので、医師の診察を受けてください。)」
の記載があります。

また、「3日間服用しても症状の改善が見られない場合は服用を中止し、この説明書を持って医師又は薬剤師に相談してください。」
とも記載されています。

上にも書きましたが、5日程度飲んでても良くならないのであれば結構な症状なので早めに受診した方が良いでしょうね。3日だとちょっと短いかな?効果が安定するまで数日かかるし。

胃痛の場合、便が黒くなっていたら出血してる可能性があるので便の色も見ておいた方が良いでしょう。

ちなみに、医療用の場合は「胃潰瘍は8週間まで」「十二指腸潰瘍は6週間まで」みたいな縛りがあります。
「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」だと期限はないんですけどね。

この6週・8週の期間について、新人の頃にメーカーさんに訊いたことがあります(20年くらい前)。
回答は「それ以上は試験していないから」とのこと。

ただ、長期で服用すると骨折や感染、腎・肝障害などが問題になる事が議論されていることも確かです。
ご自身の判断で長期使用はしないようにしてください。

市販薬は基本的にすべて短期間の使用にとどめておいてください。

まとめ

市販のPPIは以下の3種類が販売されています。

効能は同じで大きな差はありませんが、相互作用や剤形、価格にちょっとした違いがあります。

胃酸を強力に抑えるため胃痛や胸やけには効果的ですね。実績も十分です。

ただ、いずれも短期間の使用(2週間以内)にとどめ、良くならないときは無理せず医師に相談してください。

また、今のところは要指導医薬品ということで薬剤師のいる店頭でないと買えません。何年かすればネットでも買えるようになると思います。

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